- はじめに
- 前置き
- 古典的なアーキタイプ三分類
- MtG開発部による六分類
- デュエマの「速攻」とは?
- 「速攻」はデュエマ特有のアーキタイプ
- アグロと速攻は違う!
- 「アグロ」という語が流布した経緯
- まとめ
- 補足と追記
- おまけ1:中速とは
- おまけ2:撹乱的アグロについて
- おわりに
はじめに
私がデュエプレをやるようになって、「アグロ」「ミッドレンジ」という単語を耳にするようになった。 用法を調べてみると、デュエマでいう所の「速攻」「ビートダウン」に近い語のようである。 しかしながら、私は「アグロ」「ミッドレンジ」にそれらとは微妙に違うニュアンスを感じ取り、違和感を感じていた。
その違和感を解決するため、今回私は、自分が考える「アグロ/ミッドレンジ」と「速攻/ビートダウン」の違いをこの記事でまとめることにした。 ただしそれだけでは、そこら辺にいる1プレイヤーの感想に過ぎない。 もっと自信を持って自説を唱えられるように、
- カードゲームの「アーキタイプ」分類
- デュエマの「速攻/ビートダウン」の定義
についても自分が納得いくまで調べて、一緒に載せた。 記事のどこかしらで新しい知見を得て、それを面白いと感じてもらえれば、とても嬉しい。
前置き
自分は、2007~2012年頃に紙のデュエマを触って、2019年にデュエプレでカードゲームに戻ってきたプレイヤーである。 他のTCG・DCGはやったことがない。 一応、MtG、 遊戯王、ヴァイスシュヴァルツ、シャドウバースあたりはルールが分かるが、 知識や感覚は初期~2010年前後のデュエマに偏っていることをご承知おき願いたい。
ここでは主に、TCGの始祖であるマジック・ザ・ギャザリング(MtG)の記事・wikiを参考にする。 MtGはデュエル・マスターズの原型でもあるため、バトルゾーンやマナといった共通の概念が多く、議論の題材としてもってこいである。 本当は他のTCGについても詳しく言及できると良いのだが、私の知識ではそれは難しい。 MtG, デュエマ以外にもTCG, DCGを触ったことのある方がいれば、ぜひコメントしていただきたい。
特に区別しない限り、「デュエマ」と書いてあるところはデュエプレにも当てはまることである。
混乱を避けるため、ルールやカードタイプ等の用語は可能な限りデュエマのもので記述する。
引用部分は、2020年11月時点での記述である。 wikiが更新された場合、該当部分が編集されてしまう可能性もある。
古典的なアーキタイプ三分類
古典的には、カードゲームのデッキはビートダウン・コントロール・コンボという3種類のアーキタイプに分けられる。 大半のカードゲームでは、この分類が通用するだろう。
過去には長い間、主にビートダウン・コントロール・コンボデッキの3タイプに分類されてきた。
デッキタイプは次の3つに大きく分けられる。
- 積極的に攻撃し、すぐにシールドをブレイクしきって勝利するビートダウン
- 相手の行動を制限、バトルゾーンを制圧した後に勝負を決めるコントロール
- コンボによって勝利することを目的としたコンボデッキ
古典的には【ビートダウン】【コントロール】【コンボデッキ】の3つに分けることが多い。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/34796.html
https://w.atwiki.jp/kyougenshi/pages/575.html
MtG開発部による六分類
2012年、MtG公式がアーキタイプに関する記事を2件投稿する。 それらによると、MtG開発部は以下の6つに細分化したアーキタイプ分類をしているという。 「攪乱的アグロ」以外の5個の区分については、デュエマにも比較的納得のいく形で持ち込むことができると思う(攪乱的アグロについては全体の後に少し補足した)。
- アグロ:最序盤から軽い脅威を展開し、速やかに対戦相手を倒す。
- ミッドレンジ:3~6マナ域の脅威を攻防に回して戦う。マナ加速を伴うこともある。
- ランプ:序盤はマナ加速を連打し、そこから少数の重い脅威を展開する。
- コンボ:特定のカードの組み合わせなど、変わった戦略で勝利を目指す。
- コントロール:対戦相手の脅威を妨害し続け、最後には少数の脅威でゲームを終わらせる。
- 撹乱的アグロ:脅威を展開し、それに対する除去と対戦相手の脅威を、カウンターなどで妨害しながら戦う。
※元記事は英語。
さて、この2つの記事を読んで気付くのが、 前者の記事では「ビートダウン(Beatdown)」と書かれている部分が、後者では「アグロ(Aggro)」に置き換わっているということだ。 文脈的に、この2つの単語は明らかに同じものを指している。 同じMtG公式から出ている記事だし、執筆時期にそこまで差があるわけでもない。 つまり、元来「アグロ」と「ビートダウン」は同じ使われ方をしていたのである。
ネットの海を泳いでみると、2011年の個人ブログにも、「アグロ」と「ビートダウン」は区別しないという旨のコメントが複数寄せられているのを発見した。 日本のMtG界隈でも、「アグロ」という単語が「ビートダウン」と同じ意味で使われていたということになる。
では、「アグロ」と「ビートダウン」という2つの単語は、どのようにして意味が分かれていったのだろうか。
自分の見解だと、2012年以前の日本の三分類においては、「ビートダウン」と呼ぶ人が多数派で、「アグロ」を使っていたのはごく少数だった。 すなわち、アーキタイプの名前としてメジャーなのは「ビートダウン」のほうだったわけだ。 実際、MtG Wikiの「アーキタイプ」のページの編集履歴を見ると、「ビートダウン」はページ設立当初から記述があるのに対し、 「アグロ」という語は2013年7月9日、六分類のことが追記されたときまで書かれてすらいなかった。
そこにMtG公式記事が、速い「アグロ」と少し遅めの「ミッドレンジ」という2つの概念を新たに提唱した。 すると、三分類ではあまり使われていなかった「アグロ」という単語の語義は、新しいMtG六分類の定義の方に寄っていった。
その結果、元々の三分類では区別の無かった2つの語のうち、プレイヤーに馴染みの薄かった「アグロ」は新しい六分類アーキタイプの用語となり、よく使われていた「ビートダウン」は従来通り三分類アーキタイプの用語として残った。
これが、今のカードゲーマーが使う「アグロ」の発祥である。
デュエマの「速攻」とは?
主にMtG目線のアーキタイプ分類を見たところで、次はデュエマのアーキタイプの話だ。
デュエマでは、古典的三分類の「ビートダウン」を、さらに「速攻」と「ビートダウン」の2つに分割することが多い。 なお、これ以降の「ビートダウン」は、速攻を含まない「狭義のビートダウン」のことを指す。*1
DM wikiでは、速攻とビートダウンがそれぞれ以下のように説明されている。この説明は、私の見解とも合致している。
5ターン前後までにコンスタントに相手を倒せるよう、ほとんどのカードは1〜3コストの軽いカードで組まれる。 手札が枯渇して相手に場をコントロールされる前にとどめを刺すように構成される。息切れしたときの保険などはあまり考慮せず、速さに特化した構成をとる。
【速攻】よりは遅いが、基本的には終盤まで積極的に攻撃して勝負をつけるタイプであり、中速と呼ばれる事もある。遅い分、【速攻】よりは重くて強力なカードを使う。マナ加速やドローを採用したデッキは基本的にこちらに分類される。
これらの説明を、自分の言葉で書き直してみたい。
デュエマにおいて、速攻は、速度を何よりも優先するデッキである。 序盤に相手を倒し切ることだけを考え、長期戦の事は頭に入れない。 その結果として、リソースを取るカードがしばしば入らないのが大きな特徴である。
それに対して、ビートダウンは「攻撃的なデッキのうち、速攻では無いもの」という定義となる。 リソースや長期戦をそれなりに意識した構築になっていたら、それはビートダウンである。
青入りの速攻
少し話が逸れるが、リソースの有無という観点において、この速攻/ビートダウンの分類基準は 《アストラル・リーフ》《海底鬼面城》のような手札補充できる青入り軽量デッキの分類に少し困る。
例えば【青単速攻】は【速攻】に分類されているものの、手札を補充しながらじわじわと殴っていくため、中速扱いされることも多い。
しかし、私の感覚では、これらのカードを使っても「速攻」と呼べる構築にはなり得る。 これらのカードを使う上での最速の構築になっているか否かが、その判断基準だ。
具体的なデッキタイプで言うと、デュエプレ2弾環境の【赤リーフ】は速攻で、【緑リーフ】はビートダウンである。
【赤リーフ】には《凶戦士ブレイズ・クロー》や《火炎流星弾》が入っていて、赤青で組む場合の最速の構成になっていた。
一方、【緑リーフ】には1マナクリーチャー《スナイプ・モスキート》の姿は無く、パワー重視の《怒髪の剛腕》《レベリオン・クワキリ》が採用されていた。
よって、前者は速攻、後者はビートダウンと判別できる。
「速攻」はデュエマ特有のアーキタイプ
「速攻」というアーキタイプは、デュエマに特有の概念であるように思われる。 「[いろいろなTCG名] 速攻」で検索をかけたところ、デュエマと同義の「速攻」というアーキタイプが定義できるカードゲームは他に無さそうである。 あるとすれば、この単語をデュエマから表面的に輸入したか、もしくは単に日本語の「速攻する」という意味合いで使うくらいだろう。
デュエマの「速攻」が独自性を持つ背景には、受けが強いゲーム性と、独特な戦闘ルールがあると私は考えている。
まず、受けが強いゲーム性について。
デュエマでは、プレイヤーを攻撃するとシールドが相手の手札に加わる。 相手のプレイできるカードが直接的に増えてしまうので、基本的には受け側が有利なゲームである。
このゲーム性の下で相手を倒すには、こちらもカードアドバンテージを稼ぎながら攻撃するか(分かりやすいのが【マルコビート】)、十分に有利状況を作ってから攻撃する(コントロール)というのが自然な発想である。*2
そんな中、速攻のように本当に攻めることしか考えていないデッキ構成は異質と言ってよい。 ゲーム性に正面から刃向かっておきながら、その逆境を克服しようとする工夫すら見られない。 この異端者を表現するには、「速攻」というアーキタイプ区分が必要になってくる。
それならば、ゲーム性にそぐわない速攻がなぜ存在できるのか。 その理由こそがもう一つの背景、「速攻」が成立するデュエマの戦闘ルールである。
デュエマの戦闘ルールの特殊さは2つある。
1つ目は、デュエマには、プレイヤーへのダイレクトアタックを止める手段が、「ブロッカー」を持つクリーチャーによる「ブロック」しかないこと。自分がどんな強力なクリーチャーを出せたとしても、そいつがブロッカーを持っていなければ、その横を通り抜けてダイレクトアタックされてしまう。
原始的な環境ではブロッカーは重宝されるのだが、環境トップレベルまで構築を煮詰めた結果、ブロッカーをほとんどor全く入れないデッキというのも珍しくない。したがって、"相手クリーチャーを無視してプレイヤーを攻撃"という事象は、実戦でも容易に起こりうる。
2つ目は、デュエマの戦闘ステップでは、アンタップ状態のクリーチャーは攻撃対象にならないこと。 除去カードの対象にはなるものの、アンタップしているクリーチャーが攻撃を受けて破壊されることは無い。
以上2つのシステムが組み合わさると、クリーチャーを召喚すれば基本的に1回はダイレクトアタックできるという基本構図が完成する。この下では、ただウィニーを並べて殴るという戦略でも勝ちが狙える。これこそが、デュエマの「速攻」の基盤である。
各カードゲームのルールブックをざっと読んできたが、この2つの条件を満たしているカードゲームは他にない。 「速攻」というアーキタイプは、やはりデュエマ特有なのだ。
「全員ブロッカー」は、場に出ているクリーチャー全てがブロッカーの役割を持つか(=クリーチャーが出ているだけでダイレクトアタック防止になるか)。 「アンタップキラー」は、アンタップ状態(未攻撃状態)のクリーチャーを攻撃できるかどうか。 今回の議論には使わないが、場に出たターンは攻撃できない「召喚酔い」というシステムがあるかどうかも載せておく。
この表から分かるように、「全員ブロッカー」も「アンタップキラー」も無いゲームはデュエマだけ。 「出せば1回はダイレクトアタック可能」というシステムは、デュエマ特有なのである。
タイトル | 全員ブロッカー | アンタップキラー | 召喚酔い |
---|---|---|---|
デュエマ | ない | ない | する |
MtG | ある | ない | する |
遊戯王 | ある | ある | しない |
ポケモンカード | ※1 | ある | しない |
バトルスピリッツ | ある | ない※2 | しない |
ヴァンガード | ない | ある | しない |
ヴァイスシュヴァルツ | ある | ある | しない |
WIXOSS | ある | ある | しない |
Z/X | ある | ある | しない |
ハースストーン | ない | ある | する |
シャドウバース | ない | ある | する |
- ※1:ポケモンカードは、クリーチャーを6体撃破すると勝利となる。ゆえにダイレクトアタックの概念が無い。
- ※2:バトスピは、基本的に攻撃対象がプレイヤーのみ(コメントにて指摘&修正)。
アグロと速攻は違う!
ここまでの流れを整理しよう。
MtG開発部の記事により、高速攻撃デッキが「アグロ」、そうでない攻撃デッキが「ミッドレンジ」と分類された。 その一方、デュエマには「速攻」「ビートダウン」というアーキタイプが古くから存在している。 どちらも、攻撃的なデッキをその速度に注目して分類しようという意図である。
では、「アグロ / ミッドレンジ」と、「速攻 / ビートダウン」は同じ概念なのか。
私の答えは否である。
アグロ / ミッドレンジは、使うカードのコスト帯のみに注目した分類である。 アグロとミッドレンジの分類をデュエマに適用するなら、*4
- アグロ:メインカードが4マナ以下
- ミッドレンジ:メインカードが5マナ以上
が妥当だろう。補助カードが5マナ以上でも、4マナ以下のメインカードを出して殴るならアグロに分類できる。
マナの基準は体感に依るところが大きいが、理屈で説明するなら、「非SAのクリーチャーを毎ターン1体ずつ召喚すると4ターン目に殴り切れるから」「先攻が1ターンに1枚ずつカードをプレイすると4ターン目に手札が無くなるから」「後攻で出したメインカードが次のターンに《デーモン・ハンド》で除去されうるか否か」というのが目安になるだろうか。
一方、速攻 / ビートダウンは、カードコストに加えて、勝ち方の思想まで考慮した分類である。 既に詳しく述べた通り、その定義は
- 速攻:何よりも速度を優先するデッキ
- ビートダウン:それ以外の攻撃的デッキ
となる。
私の基準では、「速攻」の指す範囲は「アグロ」よりも狭い。 したがって、「アグロだが速攻ではない」というデッキが存在する。
具体的に言うと、デュエプレの【ブリザード】や【シータメイデン】、1弾環境の【赤青/ラッカビート】は、アグロではあるが速攻ではない。 これらは「高速のビートダウン」という表現がしっくりくる。
これらのデッキはメインカードが2~3マナかつ、5ターン前後での決着が見込めるため、文句なしにアグロと言えるだろう。 しかし、これらのデッキは速攻の条件である「速さを最優先」を満たしていない。
【ブリザード】は、《ブリザード》自体のリソース確保能力を活かす構築とプレイングを取る。 1マナの《冒険妖精ポレゴン》は入っているが、速度重視なら入ってくるはずの《スナイプ・モスキート》は積まれないことが多いため、速攻とは言えない。 (環境にも顔を出した事がある《モスキート》入りブリザードは非常に微妙なところだが……)
【メイデン】は、2マナの多色進化元や《メイデン》で、手札・マナを確保した上で攻撃できる。 その手札とマナを活かし、バウンスや《スパーク》で後からも勝ちを拾う意識でデッキが組まれる。 リソースを取った上で終盤の展開まで考えているので、速攻ではない。
1弾環境の【赤青/ラッカビート】は、しばしば「速攻」という表現をされた。 狭いカードプールの中、これよりも速いデッキは環境にいなかったので、速攻と呼びたくなる気持ちも分かる。
しかし、私は当時から「速攻」呼びに違和感を感じていた。 当時のレシピでは、基本的に《凶戦士ブレイズ・クロー》は入らない。 速度を少し落とし、パワーラインと手札補充を意識した構成になっていたからである。 ゆえに、私はこれを速攻と呼ぶべきではないと考えている。
個人的に赤入りで《凶戦士ブレイズ・クロー》が入っていないデッキを速攻と呼びたくないので、「準速攻」と名付けた。あと、速攻のことを"アグロ"と呼ぶ他TCG・DCGのプレイヤーは全員抹殺。デュエマでは「速攻」です。
↑ 自分の初デュエプレ記事より。随分過激だな。
以上が、私の思う「アグロ/ミッドレンジ」と、「速攻/ビートダウン」の違いである。 個人的な好みだが、デュエマ・デュエプレの「速攻かつアグロ」なデッキは速攻と呼んでほしい。 4~6弾環境の赤白速攻のことを"赤白アグロ"と呼ぶデュエプレユーザーはあまり見ないので、心配の必要はなさそうだが。
「アグロ」という語が流布した経緯
いくらTCGの始祖であるMtGに権威があるとはいえ、その公式記事だけで他のTCGの用語体系に「アグロ」が刷り込まれることにはならないだろう。 薄々、『ハースストーン』(2014年リリース)や『シャドウバース』(2016年リリース)のユーザー辺りが語感を好んで使い始めたのではないかと思っていたが、案の定その通りだったようだ。
他方で、概念誕生後のゲームでは積極的に取り入れられ、むしろMtGプレイヤーよりもハースストーンをはじめとしたデジタルカードゲームのプレイヤーがよくアグロという言葉を使っていたりする。
Hearthstoneの好評を受けてその後国内外でハースフォロワー/ハースクローンと呼ばれるゲームが登場している。 こうしたハースフォロワーは多くの単語をMtGから輸入している(ハースフォロワーはMtGフォロワーとも言えるため)。 というかMtG→ハース→ハースフォロワーのように輸入しているというべきか。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/37593.html
自分の知らぬところの出来事で、しかもこの1つしか出典が無いのは若干不安なのだが、 とりあえずはハースストーン以降のDCGユーザーによって「アグロ」という単語が広まっていった という認識で良いだろう。 DCGの用語体系が新たに作られるとき、MtG公式記事で「アグロ」などの概念が整理されていたため、自然な形で浸透したのだと思う。
ちなみにこのページには、DCGのアグロは「フェイス」と「テンポ」の2つに分けられるという旨の記述がある。 大変興味深いところではあるが、私にはその辺りの用語感覚が無いこと、 およびデュエプレユーザーがこの用語を使っているのを見ないことから、今回は言及を控える。
速攻はアーキタイプの一つ
同ページでは、デュエマのアグロ・速攻の用語問題について次のように言及している。
あくまで「アーキタイプとしての『アグロ』はないが、デッキタイプとして『速攻』はある」という解説がふさわしい。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/37593.html#id_86451adc
私はこの解説に異議を唱えたい。
「アーキタイプ」は、デッキのコンセプトや動きを加味した根本の構成のことを指す。
「デッキタイプ」はアーキタイプの下位概念で、使うカードでより細かく分類・命名したものを刺す。
「速攻」がどちらに相当するかと言えば、断然アーキタイプの方である。 本記事で書いたように、デュエマの「速攻」のゲームへの取り組み方は、他のアーキタイプと全く異なっているからだ。
デッキタイプに相当するのは、【赤単速攻】【青単速攻】【黒緑速攻】といった区分のはずである。
ところがDM wikiでは、アーキタイプとしての速攻、デッキタイプの【赤単速攻】などの両方に、デッキタイプを表現する【 】(墨付きカッコ)が使われている。こうなっているのは、「速攻」がアーキタイプ三分類には含まれていないという事実を重視した結果だと思われる。
また、アニヲタWikiが先のような解説になってしまった原因は、 DMユーザーが「アーキタイプ」という単語を使わないせいだと考えられる。 この記事を書く前の自分もそうだった。 その裏付けとして、DM wikiには「アーキタイプ」というページはなく、それに相当するページの名前は「デッキタイプ」になっている。 MtG Wikiの「デッキタイプ」に相当するページは、DM wikiだと「デッキ集」になるのだろうか(そのページでは「赤単ヴァルボーグ」のような具体的なデッキ名まで紹介されているので微妙な所)。
デュエマ固有の事情があるわけでもないので、DMにも「アーキタイプ」が浸透してほしいと思っている。
まとめ
現在の「アグロ」「ミッドレンジ」という用語の使い方は、マジック・ザ・ギャザリングの公式記事が起源。
デュエマの「速攻」は、デュエマ特有のアーキタイプである。
自分の基準では、
- 4マナ以下がアグロ、5マナ以上がミッドレンジ。
- 速さだけを追求するのが速攻、そうでなければビートダウン。
- 「速攻」が指す範囲は、「アグロ」よりも狭い。
「アグロ」という語が流布したのは、ハースストーン系列のDCGユーザーによるところが大きい。
補足と追記
ここでは、記事を執筆した後にいただいた意見をまとめる。
速攻はマナカーブの概念あってこそ
XYetiさんのコメントより。
「速攻」というアーキタイプが存在するためには、「カード使用のためのコストが細かく設定されている」ということが大前提になる。コストやマナカーブという概念が緻密にあるゲームでは、カードが軽量であること自体に価値が生まれるのである。
デュエマ以外に、1~10程度の範囲のマナコストが存在するゲームは、
MtG、バトスピ(やや特殊)、Z/X、ハースストーン、シャドウバース
などがある。これらのゲームでは、デュエマに近い感覚で アグロ / ミッドレンジ の分類を判断できるだろう。
そうでないゲームだと、例えば遊戯王は極端で、手続きさえ踏めば1ターン目から上級・最上級モンスターを簡単に出すことが可能である。
ヴァンガードなどの「リーダーレベル制」を採用しているゲームでは、カードには概ね0~3のレベルが設定されていて、ゲームが進むにつれて高レベルのカードをプレイできるようになる。
MtGアグロのタイプ
はせけいさんからのリプライを受けて追記。
ライフ制かつ相手のライフを削る効果(バーン)があるMtGでは、アグロというアーキタイプの中に
- 良質な低コストクリーチャーで殴る「ウィニー」
- バーンも併用した赤主体の「スライ」
- マナ加速と大きめのカードも併用する緑単色の「ストンピィ」
http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%83%BC http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4 http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%A3
などのデッキタイプが存在する。ゲームシステムが違うので純粋な比較にはならないが、構築だけを比べると、MtGの「ウィニー」はデュエマの「速攻」に比較的近いと言える。
デュエマで「速攻」が「ウィニー」の代わりに定着した経緯までは分からない。想像してみると、
- 本文での考察の通り、無謀かつ戦闘システムの穴を突くという戦略性に差異を見出した?
- MtGと違い、デュエマにはアグロデッキに上記で示したようなバリエーションが無いことが影響?
- 単にMtG用語が輸入されなかっただけ(インターネットが今ほど普及していなかったのもある)?
などだろうか。
おまけ1:中速とは
デュエマには「中速」という表現が昔から存在する。
【速攻】の中でもやや遅めな戦法。もしくはそのようなデッキのこと。 (中略) ミッドレンジ(Midrange)と呼ばれることもある。
https://dm-wiki.net/%E4%B8%AD%E9%80%9F:title)
今になって思えば、「中速 = ミッドレンジ」と等号で結んで定義できる。
実は紙の頃、私は中速がどういうデッキを指すのかよく分からなかった。 何となく、5~7マナくらいのカードで攻撃するデッキが中速だと思っていたのだが、 それだと「速攻」と「中速」の間に隙間が出来てしまうような気がしていた。
先ほどのアグロとミッドレンジの定義に基づけば、その悩みは完全に解消できる。 字面を拾っても、ミッドレンジと中速は同義だと言っていい。
DMプレイヤーとしては昔からある「中速」を使いたい気持ちが少しあるのだが、 私のように中途半端な理解のままでいる人も多そうなので、 「ミッドレンジ」のほうを使うのが適切だと今では考えている。
おまけ2:撹乱的アグロについて
アーキタイプ六分類の中にある「攪乱的アグロ」(ビート・コントロール、アグロ・コントロールとも)。 生粋のDMプレイヤーである自分には意味がよく分からなかったので、調べてみた。
早い段階でクリーチャーなどのダメージ源を展開し、同時に土地破壊や手札破壊などのコントロール要素で対戦相手の動きを妨害してクロックを維持しそのまま勝負を決めるのが基本戦略。
クロック(Clock)とは、戦場のダメージソースと対戦相手のライフから、あと何ターンでゲームを終わらせることができるかという目安。
これを理解するには、MtGのルールを知っている必要がある。
MtGには「インスタント」というカードタイプがある。 インスタントは相手ターン中にも発動可能で、 これを使うと相手がプレイしようとしたカードを無効化するなどの妨害ができる(遊戯王でいう所の罠カードに近い)。
また、MtG(およびDM以外の多数のカードゲーム)には、相手プレイヤーを攻撃することにデメリットが無い。 そのため、序盤からコンスタントに攻撃し続けて勝つことが比較的現実的である。
このゲーム性の下では、
初めに小さいクリーチャーを出し、相手の除去札やクリーチャー召喚を無効化しながら、そのクリーチャーで攻撃し続ける
という戦術が成立する。これが攪乱的アグロの実態である。
一方デュエマの場合は、相手の行動を直接妨害することはほぼ不可能。 また、ブレイクしたシールドが相手の手札に加わり、さらにはS・トリガーも使われうるというルール上、 最初から最後まで同じクリーチャーでこつこつシールドを割り続けるのは難しい。
そのため、デュエマでは「攪乱的アグロ」というアーキタイプは成立しない。
(「カードゲームによって事情が変わるパターン」でのデュエマに関する記述)
またカウンター呪文にあたる概念がないので、「撹乱的アグロ」は組みづらい。 そもそもデュエル・マスターズは「相手にダメージを与える」=「シールド・トリガーが発動することがある」ゲームなので、「クロックを刻む」という概念が薄い。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/34796.html
それでもあえてデュエプレで例えるなら、初めに《ブレイズ・クロー》を召喚し、 後はひたすら《火炎流星弾》《スパイラル・スライダー》を唱え続けて勝つ、というイメージだろうか。
相手への妨害を主眼に置いたビートダウンという意味では、本家DMの《至宝 オール・イエス》を使ったビートダウンなどはこれに近いかもしれない。
といっても、これもあくまで無理矢理例えているだけ。 このアーキタイプについては、デュエマに適用すべきではないと思う。
なお、攪乱的アグロの"アグロ"は、「ビートダウン」の意味合いで使われている。 攪乱的アグロのキルターンは、六分類の「アグロ」よりもずっと遅い。 ここではMtG Wikiの記述に従って「攪乱的アグロ」の表記で統一したが、 本当ならば「攪乱的ビートダウン」、もしくは今もある別名の「ビート・コントロール」という表現の方が誤解を生まなくて良いと思う。
おわりに
1000字くらいでサクッとまとめるつもりが、だいぶ勢いに乗ってしまった。
デュエマで速攻が成り立つ理由は、実はこの記事を書いている最中に気付いたものである。 その時には大発見をしたような気分でとてもワクワクしたが、 各カードゲームのルールブックを読んで裏付けを取らなければいけなかったのは非常に面倒くさかった。
「リーサル」という語についても思うところがあるが、そっちは本当に中身が無いので1000字で書くつもり。
追記:案の定長くなった。